1ページ目/全7ページ 甲高い着信音で無理やり起こされた鳳長太郎は、布団の中から右手だけ伸ばし、 時計代わりに置いてあった携帯電話を掴んだ。 冬休みも始まったばかりで、今日は部活も無かったので、昼までゆっくり眠るつもりだったのだ。 (ああ〜まだ9時だよ) 快眠を邪魔されて不機嫌な鳳だったが、液晶画面を覗いて相手が誰かわかると、とたんに毛布を 蹴散らして跳ね起きた。思わず、ベッドの上で正座までしてしまった。 「お、おはようございます。宍戸サン。ど、どうしたんですか? 何かありました?」 思わず、電話口でどもってしまった。この人が電話をしてくるなんて、本当に珍しいからだ。 相手の名前は宍戸亮。 鳳の想い人で、現在交際中だったりする。 しかし、鳳が10回電話をかけて、やっと1回だけ宍戸からかけてくる、そんな相手であった。 前にその事を宍戸に尋ねたら 「学校の部活で毎日会うんだし、その時に話せば良いだろ?」 とアッサリと返されてしまった。確かに、その通りなのだが。 (本当に、つきあっているのかな〜俺たち?) (もしかして、俺だけが勝手に盛り上がっているのかな?) なんて、鳳はたまに不安に襲われる事があった。 さらに宍戸が部活を引退してからは、会う機会が全く無くなってしまった。 鳳も、宍戸が<高等部への進学試験>を受ける事を知っていたので、連絡を取るのを遠慮していた。 氷帝学園は、裕福な家庭の子女が通う事で知られる名門校だった。 幼稚舎から大学院まであるエスカレーター式だが、偏差値の高さでも有名だった。 高等部への進学は、普段の成績と、<進学試験>で一定の点数を取らないとならない。 「ああ〜長太郎、久しぶりだな。オレ、試験パスしたわ。連絡遅くてごめんな」 「知ってます。おめでとうございます!」 試験の発表は1週間も前の話だった。 鳳はお祝いが言いたくて何度か宍戸へ電話したのだが、いつも携帯は電源が切れていたし、 自宅にかけると留守だと家族に言われた。 3年生は部活も無いし、学校の終わった後に夜遅くまで、宍戸は一体どう過ごしているのか? (俺は、毎日すごく宍戸サンに会いたいのに) (宍戸サンは、そんな事を考えたりしないのかな?) でも、それは今、宍戸に非難がましく言うべき事では無いと思う。 宍戸の方から電話で連絡をくれたのだ。 嬉しそうなその声を聞いていると、鳳も満たされる気分がする。それで今は満足だった。 「あのな〜長太郎? 今日の午後予定が空いてたら、ちょっとつきあってもらいたいんだけど、良いか?」 「えっ?」 鳳は、とっさに宍戸が何を言っているのか理解できなかった。 いつも何かしら言い出すのは鳳の方で、宍戸からの誘いなんてこれが初めてだったからだ。 (これって? もしかして? デートの誘いなんだろうか??) (宍戸サンとデート!!!) 「全然空いてます! いつでも大丈夫です! 死んでも行きます!!」 大声でそう捲くし立てる鳳に、電話の向こうの宍戸は声を上げて笑っていた。 |
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